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東京地方裁判所 平成4年(特わ)2541号 判決

主文

被告人を判示第一及び第二の各罪について懲役二年に、判示第三の罪について懲役六月に処する。

未決勾留日数中六〇日を判示第一及び第二の各罪の刑に算入する。

押収してある二連式箱型銃二丁(平成五年押第八三号の8、9)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人は、甲野一郎と共謀の上、東京エム・シー・オイル株式会社(代表取締役N)所有にかかる東京都新宿区上落合一丁目一六〇番一、同番二、同一丁目一二二番二及び同番四の各宅地(地積合計五六五・五平方メートル)並びに同一丁目一六〇番地一所在の建物(給油所、鉄筋コンクリート造陸屋根平屋建、床面積六三・九六平方メートル)につき、同会社に無断で甲野を権利者とする所有権移転登記をしようと考え、平成三年九月中旬ころ、同区西新宿三丁目五番三号西新宿ダイヤモンドパレス三〇三号室において、行使の目的をもって、ほしいままに、右宅地及び建物につき、受任者をB、登記権利者を甲野、登記義務者を同会社とする所有権移転登記の申請手続に関する委任状の義務者欄に「東京エム・シー・オイル株式会社代表取締役N」と勝手に記入し、その横に「代表取締役印」と現れる印影を勝手に孔版印刷して、同会社代表取締役N作成名義の委任状一通を偽造するとともに、印鑑証明書交付申請書の印鑑欄の印影は同会社の登録印影である旨を証明する印鑑証明書及び同会社の商号等登記事項に変更がないこと等を証明する「登記事項に変更がないこと及びある事項の登記がないことの証明書」(以下、この登記事項に変更がないこと等の証明書を「資格証明書」という。)の各証明書欄にいずれも「東京法務局港出張所登記官C」とそれぞれ勝手に記入し、その横にいずれも「東京法務局港出張所登記官之印」と現れる印影を勝手に孔版印刷して、同登記官作成名義の印鑑証明書一通及び資格証明書一通をそれぞれ偽造した上、同年九月一九日、同区北新宿一丁目八番二二号東京法務局新宿出張所において、右委任状記載の内容の登記申請をするに際し、事情を知らない同出張所登記官吏に対し、偽造にかかる右委任状、印鑑証明書及び資格証明書をいずれも真正に成立したもののように装って関係書類とともに一括提出して行使し、同出張所登記官吏をして、同年一〇月七日ころ、同出張所備付けの右各宅地及び建物の各不動産登記簿原本にその旨不実の記載をさせ、即時、これを同出張所に備え付けさせて行使した。

第二  被告人は、神奈川運輸株式会社所有名義にかかる同区西新宿三丁目一四六番地六、同番地一九及び同番地三〇所在の建物「西新宿ダイヤモンドパレス」の一部(建物番号三〇三、居宅、鉄骨鉄筋コンクリート造、床面積一六・〇二平方メートル)に設定されていた日本信販株式会社(代表取締役D)を抵当権者とする抵当権設定登記を同会社に無断で抹消しようと考え、同年一一月中旬ころ、同都江戸川区南小岩七丁目二二番一四号リベーロ平和一-三〇三号室において、行使の目的をもって、ほしいままに、右建物につき、受任者をE、登記権利者を神奈川運輸株式会社、登記義務者を日本信販株式会社とする抵当権設定登記抹消登記の申請手続に関する委任状の義務者欄に「日本信販株式会社代表取締役D」と勝手に記入し、その横に「代表取締役印」と現れる印影を勝手に押捺して、同会社代表取締役D作成名義の登記申請委任状一通を偽造するとともに、同会社に関する資格証明書の証明者欄に「横浜地方法務局厚木支局登記官F」と勝手に記入し、その横に「横浜地方法務局厚木支局登記官之印」と現れる印影を勝手に孔版印刷して、同登記官作成名義の資格証明書一通を偽造した上、同年一一月二六日、前記東京法務局新宿出張所において、右委任状記載の内容の登記申請をするに際し、事情を知らない同出張所登記官吏に対し、偽造にかかる右委任状及び資格証明書をいずれも真正に成立したもののように装って関係書類とともに一括提出して行使し、同出張所登記官吏をして、そのころ、同出張所備付けの不動産登記の原本たるべき電磁的記録である磁気ディスクにその旨不実の記録をさせ、即時、これを同出張所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供した。

第三  被告人は、法定の除外事由がないのに、平成四年一一月二四日、神奈川県横浜市鶴見区北寺尾二丁目二〇番先路上に駐車中の普通乗用自動車内において、二連式箱型銃二丁(平成五年押第八三号の8、9)を所持した。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人及び被告人の主張に対する判断)

一  判示第三の事実につき、被告人は、当公判廷において、本件二連式箱型銃二丁(以下「本件銃」という。)を所持している旨の自己の捜査段階における供述は、被告人の他の犯罪事実を不問に付する旨の約束ないし利益誘導に基づく供述であったとし、また、本件銃は、その捜索差押えの直前に乙川二郎の車の中に乙川によって移されたものであるところ、その移動に当たっては捜査機関が深く関与していた旨供述し、弁護人も、同旨の主張をして、被告人の捜査段階における供述には任意性がない、また、本件銃は違法収集証拠であって証拠能力がないとして、被告人の無罪を主張するので、この点についての判断を示す。

二  関係各証拠によれば、判示第三の事実についての主要な捜査の経過等は、以下のとおりである。

被告人は、平成四年六月五日、別件の有印私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使の被疑事実で、東京空港警察署に逮捕され、同警察署には留置施設がないため、蒲田警察署に留置された。その際取調べに当たった東京空港警察署警部丙山三郎は、被告人の自宅から大麻と実包が発見されているとの情報を得、被告人がけん銃を所持しているのではないかと考えて、被告人を追及していたところ、被告人がけん銃を所持していることを供述した。しかし、被告人は、所持しているけん銃の種類、丁数、その隠し場所等についてはいまだ供述していなかった。

その後、被告人は、松戸警察署において他の事件について取調べを受けた後、同年八月四日、前記の同年六月五日に逮捕された件で懲役一年六月の実刑判決を受け、同判決の確定後名古屋刑務所に収監された。被告人は、同年一〇月六日、判示第一の事実を被疑事実として、東京空港警察署に逮捕され、大森警察署に留置された上で、再び丙山から取調べを受けることとなった。そして、その取調べの過程において、被告人は、ある者の所有する普通乗用自動車BMWのトランクのシートの下に本件銃を隠している旨の供述を始めた。なお、被告人は、同月一四日ころ、かたばみ商事株式会社及び長澤機工株式会社所有の不動産に勝手に根抵当権設定仮登記をした件(以下「かたばみ商事の件」という。)についても自供をしたため、東京空港警察署では、神奈川県川崎警察署に問い合わせ、川崎警察署としてはすでに捜査を打ち切った事件であるとの回答を得たので、東京空港警察署の方で引き継いで捜査を始めた。また、神奈川県警察本部刑事部機動捜査隊からは、東京空港警察署にさらに別の件(以下「神奈川県警の件」という。)について照会があり、丙山は被告人に対してそのような照会があったことを伝えておいた。

被告人は、同年一〇月二六日、判示第一の事実につき起訴され、東京拘置所に身柄を移された後、同年一一月五日、警視庁本部留置場に移監され、引き続いて丙山らから判示第二の事実及び本件銃の件についての取調べを受けた。被告人は、ここでも当初はBMWのトランクの中に本件銃を隠している旨供述していたが、数日後被告人の弟である丁四郎の家のベッドの下に隠していると供述を変え、さらに同月一六日までには、BMWのトランクの中に隠した旨の供述に戻り、司法警察員丙山三郎に対する同日付け供述調書〔乙43〕が作成された。その内容は、被告人は、数年前に本件銃を入手して、以後ずっと保管してきてきたが、平成四年五月上旬ころのある日、被告人と同じ暴力団に以前所属していた乙川二郎に連絡を取り、横浜駅までBMWで迎えに来てもらい、第二京浜国道沿いのアイスクリーム店「サーティーワン」の駐車場まで行き、二人でしばらく話をしていたが、乙川が用を足しに車を離れたときを見計らって、乙川に知られないように本件銃をBMWのトランクの中のシートの下に隠したというものである。

東京空港警察署は、同年一一月二〇日、乙川所有にかかるBMW(自家用普通乗用自動車・第横浜〈番号略〉)内を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、同月二四日午前六時四〇分から同五〇分までの間、神奈川県横浜市鶴見区北寺尾二丁目二〇番先路上においてその捜索を行い、同車後部トランク内青色プラスチック製シート下スペアタイヤハウス内から本件銃を発見し、押収した。丙山は、捜索の前日である同月二三日、乙川宅に電話を入れ、翌日早朝に右捜索場所付近において乙川と待ち合わせをする約束をしていたが、捜索当日の二四日、乙川が待ち合わせの場所に来ていなかったため、乙川宅に再び電話を入れて呼び出し、乙川の指示に従って右捜索場所に赴き、乙川の立会いのもとその捜索を行っている。

被告人は、その後同年一二月三日身柄を東京拘置所に移された後の同月一六日に本件銃の件で逮捕され、警視庁本部留置場に留置され、同月一七日以降同留置場に勾留された。その間、右供述調書とほぼ同趣旨の内容の同月一六日付け、同月二〇日付け(以上は司法警察員に対するもの)及び同月二一日付け(検察官に対するもの)各供述調書〔乙44、45、46〕が作成されている。同月四日及び同月二〇日には乙川の司法警察員に対する供述調書二通〔甲69、70〕が作成されているが、その供述内容も、右の内容にほぼ合致するものであった。

なお、被告人は、同年一一月五日以降本部留置場において取調べを受けている間、乙川及び丁と電話で数回話をしている。この際は、被告人の申告した両名の電話番号を東京空港警察署巡査戌海五郎らがダイヤルして電話をつないだあと、被告人と替わって会話をするという形を取っていた。

また、被告人は、松戸警察署において、同年七月七日乙川及び丁と、同月一五日乙川外一名と、同月一七日丁と、大森警察署において、同年一〇月七日丁と、同月二九日丁及び乙川と、警視庁本部留置場において、同年一一月一一日及び同月一六日いずれも丁とそれぞれ接見している。

三  以上の捜査の経過等を前提にして、まず、被告人の本件銃に関する供述の任意性について検討する。

1  被告人は、当公判廷において、「大森警察署において留置されているころ、丙山が余罪を不問に付するという取引に乗るのではないかと思い、丙山に対して、けん銃を出すから余罪を不問にできないかと聞いてみた。自分としては、判示第一及び第二の件、かたばみ商事の件、神奈川県警の件等について、すべて不問に付してくれることを期待していたが、丙山から、判示第一及び第二の件はすでに告発を受けているから不問にすることは無理だが、その他の件については考慮すると言われたので、取引は成立したと思った。」という趣旨の供述をする。

しかし、前記認定事実によれば、東京空港警察署としては、かたばみ商事の件につき、被告人の供述によって初めてその捜査の端緒を得たことが認められること、前記のとおり、被告人は、蒲田警察署に留置されているころから、すでにけん銃の所持について丙山から追及を受けており、そのころからこれを認める供述をしていたことなどからすると、かたばみ商事の件を不問に付してもらうために本件銃の所持について供述をしたとの被告人の右供述は信用できない。

また、神奈川県警の件については、他県の警察において捜査中の事件を丙山の一存で不問に付するよう働きかけることなど不可能であって、神奈川県警の件をも不問に付してもらうとの取引が成立していたとの被告人の供述もまた信用できないものといわざるを得ない。

なお、かたばみ商事の件については、東京空港警察署が川崎警察署から事件を引き継いで捜査をしたが、結局起訴されるに至っていない。しかし、司法警察員作成の平成四年一二月二二日付け捜査報告書〔甲103〕によれば、この事件は被害者からの告訴がないこと、裏付け捜査が困難であること、判示第一及び第二の犯行と同一手口のものであることなどを理由に、立件を見合せ捜査を終結することとしたと認められるのであって、起訴されていない一事をもって被告人と捜査官との取引の存在をうかがわせる事情とはならない。かえって、かたばみ商事の件についての被告人の司法警察員に対する供述調書〔乙47〕は、本件銃が押収された後の同年一一月三〇日に丙山らによって作成されたものであることからすると、東京空港警察署としてはいまだ立件に向けて捜査を行っていたことがうかがわれ、被告人との取引がなかったことの証左であるとも考えられるのである。

2  以上からすると、被告人と丙山との間に余罪を不問に付するとの取引があったとは認められず、このほか被告人の捜査段階の供述の任意性を疑わせるに足りる事情はない。したがって、右供述には任意性があるものと認められる。

3  なお、同年一〇月二七日、被告人がある者の所有するBMWのトランクの中に本件銃を隠していることを自供し、これは取引によるものではない旨供述している録音テープがあるところ、弁護人及び被告人は、これは取引があったことが後に暴露されるのをおそれて、それを隠すためにあえて録音されたものであり、むしろ取引のあったことを示すものである旨主張するが、右録音テープの内容等からみて、そこから直ちに弁護人らの主張するような事実を認めることはできず、被告人の供述の任意性に関する右判断に何ら影響を及ぼすものではない。

四  次に、本件銃の押収手続には違法があるから、違法収集証拠として証拠能力がないとの弁護人の主張について検討する。

1  被告人は当公判廷において、本件銃の押収に関する手続、捜査機関の関与等に関しておおむね以下のとおり供述する。

「松戸警察署に留置されているとき、乙川と丁を呼び出して面会した。このとき、乙川に対して、銃を預けてある場所を教えておいた。大森警察署に留置されているころ、丙山に対して、本件銃は自分の知人のところに預けてあり、その人の名前は出せないが、乙川に頼んで本件銃を持ってきてその所有するBMWのトランクの中のシートの下に入れてもらう、本件銃は、平成四年五月初旬ころに、被告人が乙川にわからないようにBMWのトランクの中に隠しておいたことにするから、そこに捜索をかけるという形で本件銃を提出したいと言った。丙山は、乙川の車は普段使っている車である以上、検問等でトランクの中が見られていることもあり得るから、まずいのではないかと言っていたが、結局そのような形でよいことになって、一旦話が付いた。

一〇月二九日に乙川及び丁と面会し、両名に対して、五月初旬ころに乙川の車のトランクの中に勝手に本件銃を入れておいたということにして、本件銃を出すことについて警察のほうと話が付いているから、本件銃を車のトランクの中に入れておけと話しておいた。

警視庁本部留置場に移ったころ、乙川から連絡があって、自分の車に入れることについて乗り気でないと言ってきたため、そのことを丙山に報告すると、他の方法を急いで考えてくれと言われ、丁方の部屋のベッドの下に隠したという形でどうかと提案した。丙山は、掃除でもすれば目に付くからまずいと言っていたが、他に考えられる場所もないので、その線で一時話が決まった。その後、丁が面会に来て、もうその部屋にはベッドがないから無理だなどと言ってきたので、丙山にその旨報告した。再び丁と面会した際、丁が乙川を説得したと言ってきたため、最終的に乙川の車の中に入れるという話に決まった。

警視庁本部留置場においては、全部で三回乙川と電話で話しており、その一回目のときに、『結局お前の車の中から出すことになったから、承知しているだろうな。本件銃の預け先からそれを受け取って、お前の車のトランクのシートの下のスペアタイヤハウスに入れておけ。』などと指示した。さらに、丙山がその電話に出て、捜索の段取りのほか、本件銃に指紋を付けるななどと指示したり、トランクの中の状況を詳しく乙川に聞いていた。

このように、本件銃をどこに置いた上で捜索をするかなどのアイディアは、自分が主だって考えたものであるが、丙山からも細々した点についてアドバイスがあったし、丙山は乙川が本件銃の預け先からその車に移したことについて十分認識していたはずである。」

2  また、乙川の当公判廷における証言の要旨は、以下のとおりである。

「被告人が松戸警察署に留置されているとき、丁と一緒に被告人と面会した。その際、被告人は丁に対して、東京空港警察署と話ができているから、警察に電話していつ本件銃を出すか打合せをしてくれと言っていた。

一〇月二九日に大森警察署で丁と一緒に被告人と面会した際も、被告人から丁に対して、丙山と話ができているから、東京空港警察署に電話を入れてくれと言っていた。その面会からの帰りに、丁から車の中に入れるという話に決まれば、自分の車の中に入れることになると聞いた。

一一月二三日の一、二週間前、東京空港警察署の警察官から電話があり、すぐに被告人に替わった。この際、被告人から、『お前の車に決まった、もう話は付いている。トランクの底のほうに品物を入れて隠しておいてくれ。あとは刑事さんと話をして、お前の車のナンバーを教えてやってくれ。』などと指示を受け、さらに警察官と替わって、警察官から、自分の車のトランクの中に被告人から頼まれた物を入れておいてくれ、何も迷惑はかからないからなどと言われた。

捜索の前日である同月二三日、東京空港警察署の警察官から電話があり、明日捜索をしたいが、何時なら大丈夫かと聞かれた。自分は朝なら大丈夫だと答え、午前六時ころに待ち合わせをする約束をした。そして、その後に川崎市内にある本件銃を預かっている人の家に行き、本件銃の入った黒いバッグを受け取って、その場でトランクのシートの下に入れて帰ってきた。

捜索当日は捜索に立会い、調書を作りたいから警察署に来てくれと言われ、翌日を含めて三回出頭した。事前に打ち合わせたとおり、五月初旬、サーティーワンの駐車場で自分の車に被告人が乗っていて、自分が車を離れたときに被告人が本件銃をトランクの中に入れた、見つけにくい場所だったので自分は気付かなかったなどという内容の供述調書が作られたが、実際は、取調べの警察官から尋ねられたことに対して、そうですよと答える程度の供述だった。」

丁の当公判廷における証言も、被告人の前記供述とその内容がおおむね一致している。

3  これに対し、丙山及び戌海は、当公判廷において、乙川の車の中に隠したという話が被告人から出たのは一一月一六日ころであって、それから鋭意捜査し、捜索差押許可状を得て乙川の立会いのもと捜索に及んだのであって、被告人と本件銃の隠し場所について相談したり、乙川と事前に打合せをしたことなどは一切ない、被告人に乙川や丁へ電話することを許したが、電話の内容は近況等であって一切本件銃に関する話は出ていないなどと証言する。

4  そこで、まず本件銃が乙川のBMWの中に入れられた時期についてみると、この点に関する被告人の右公判供述は具体的かつ詳細で、その内容もおよそ了解不可能なものではない。また、乙川及び丁の証言内容とは、接見の際の状況等を含むいくつかの点で差異があるものの、その主要部分においておおむね符合しているのであって、相互にその信用性を担保しているといえる。

当初、被告人は本件銃をBMWの中に隠していたと供述していたところが、一旦丁方の部屋のベッドの下に隠したという内容となり、その後また乙川のBMWの中に入れた旨の供述に戻ったという点は、丙山及び戌海も当公判廷において認めているところ、そのような供述の変遷の理由は、当時本件銃を置く場所を様々に検討していたという被告人の右公判供述の内容とよく符合しているといえる。もともと本件銃のようなものを日常使用している車に隠すことは不自然であり、また、平成四年五月から同年一一月二四日までの間、継続して乙川の車の中に本件銃が入っていたのに、乙川がそれに全く気付かなかったというのは通常考えにくいことであって、前記の被告人及び乙川の捜査段階における各供述の内容は、それ自体相当不自然であるとの感を免れず、かえって、被告人の右公判供述の信用性を裏付けるものといわざるを得ない。

次に、丙山ら捜査官において、被告人が捜索の前に乙川の車の中に本件銃を入れさせたということを認識していたかについてみると、捜査官が身柄拘束中の被疑者の取調べに際して、外部との電話連絡を許すこと自体異例なことであって、しかも、正に本件銃の保管場所とされている車の所有者である乙川と直接会話をさせていることは、本件が何らかの特殊な捜査状況にあったとの疑問を禁じ得ない。この点、丙山は、被告人から本件銃を隠したのは乙川の車の中であるとの供述を得た後に、乙川に対する電話を許していること自体は認めた上で、内偵によっても乙川の車が見つからなかったため、乙川との連絡が可能かどうか試すために捜査の必要上電話させたという面があったと証言しているが、合理的な説明とはいえない。

この点に関する被告人の右公判供述及び乙川の右証言は、一部相互に矛盾する点はあるもののおおむね信用することができ、これに反する丙山及び戌海の証言は不自然不合理の感を免れない。

したがって、以上検討した本件の証拠関係においては、被告人が当公判廷で供述するとおり、平成四年五月上旬に本件銃を乙川の車の中に入れたなどとする被告人が創作した虚偽の事実経過に基づき、同年一一月一六日被告人の供述調書が作成されたが、右事実経過が虚偽であることについては、捜査官としても認識していたこと、被告人は右事実経過に実態を合致させるために、電話や接見を通じて、乙川に対して、本件銃を預けているところから受け取って乙川の車のトランクの中に入れておくことを指示していること、被告人が乙川へ電話によって右指示を行った際には、丙山も電話に出て、被告人の右指示を踏まえた上で捜索の段取り等について話していること、乙川は被告人からの右指示に従って、本件捜索の前日ころに本件銃を自己の車のトランクの中に入れておいたことが真実ではないかとの疑いが濃厚である。本件銃の証拠能力を検討するに当たっては、以上が真実であることを前提にして、検討せざるを得ない。

5  そこで、以上のことを前提として、以下本件銃の証拠能力について判断する。

本件で被告人が乙川に指示して本件銃を移動させ、その上で捜査機関が乙川の車に捜索をかけ押収するという方法をとったこと自体は、本件銃の所持者である被告人自身が主体的に考え出したものであり、乙川も、それに従って行動することに同意し、捜索に応じたものである。すなわち、本件捜索は、被告人の意思に沿って行われたものであり、捜索を受ける乙川の意思にも反していないことになる。また、本件銃はもともと被告人の所持していたものであり、捜査機関の関与のもと新たに被告人の所持罪自体が作出されたという事情にはない。

本件捜査官は、現実に被告人が本件銃を所持しているとの自供を得たが、被告人からその所持している場所についての供述を得ることができないという状況下で、本件銃のような事実上の法禁物を何らかの形で押収すべきであるとの捜査上の判断の結果、あえて本件のような態様での捜索、押収に及んだことがうかがわれるのである。もとより、法禁物であれば、いかなる手段、方法を用いても捜索、押収が可能であるとはいえず、捜査機関として捜索、押収等の強制処分を行うに際しては、捜索、押収を受ける者らの人権を不当に侵害することがないように、適正な手続に則って行うべきであることは、憲法三五条及びこれを受けた刑事訴訟法二一八条一項の法意からして当然の理である。しかし、前記のとおり、本件捜索、押収は、被告人及び乙川の意思に反して捜査機関がその強制力を行使したという態様のものではなく、しかも、捜索、押収は捜索差押許可状に基づいて行われていることなどからすると、本件のような方法で本件銃の捜索、押収を行ったこと自体には直ちに違法があったとまではいえないと考えられる。

もっとも、本件捜索、押収の過程で、形式的には乙川に本件銃の所持罪が成立しているのではないかとも考えられ、仮にそうだとすると、捜査機関が第三者の犯罪成立に手を貸したという側面があることも否定できないところである。しかし、乙川は、前記のとおり、本件銃が押収できるように、これを運搬し、保管したものであって、その行為は、実質的にみて違法性がないか、著しく小さいものといえる。したがって、この点のかしをもって違法と捉えたとしても、その程度は重大とはいえない。

さらに、本件捜査官は、本件銃の隠匿経過について虚偽の事実が記載された被告人の司法警察員に対する平成四年一一月一六日付け供述調書〔乙43〕のほか、それを前提とした証拠書類等を疎明資料として、同月二〇日に本件捜索差押許可状を得ているものと考えられ、しかも、同日の段階では乙川の車のトランクの中にはいまだ本件銃は入っていなかった可能性が高いものと認められる。そして、捜査官としては、そのことを認識していながら裁判官に対して右許可状の発付を求めているのであって、この点を捉えれば、そこに令状主義に反するかしが全くなかったとはいえないと認めざるを得ない。しかし、前記のように、本件捜索、押収に至る過程は、本件銃の隠匿場所について被告人が供述しないもとで、捜査機関として採り得る捜査の方法を模索した結果であったこと、しかも、その捜索、押収は被告人及び乙川の意思に合致するものであったことなどからすると、右の点を違法とみたとしても、その違法の程度は重大とはいえないと考えられる。

以上の次第であるから、本件銃の捜索、押収の過程に違法が認められるとしても、それが本件銃を証拠として排除すべき重大なものであったとまではいえない。

6  そうすると、本件において、捜査機関の側の対応として相当性、妥当性を欠く面があり、非難されるべきところがあることは否定できないものの、本件銃を証拠として排除すべきものとはいえず、結局弁護人の前記主張は採用できない。

五  以上の検討から明らかなとおり、本件では、被告人が本件銃をその実力支配内においていたことは争いなく認められ、判示第三のとおり、被告人が本件銃を所持していた事実は優にこれを認めることができる。

(確定裁判)

被告人は、平成四年八月四日東京地方裁判所で有印私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使罪により懲役一年六月に処せられ、右裁判は同月一九日に確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書〔乙25〕によって認められる。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為のうち、有印私文書偽造の点は刑法六〇条、一五九条一項に、各有印公文書偽造の点はいずれも同法六〇条、一五五条一項に、偽造有印私文書行使の点は同法六〇条、一六一条一項、一五九条一項に、各偽造有印公文書行使の点はいずれも同法六〇条、一五八条一項、一五五条一項に、各公正証書原本不実記載の点はいずれも同法六〇条、一五七条一項に、各同行使の点はいずれも同法六〇条、一五八条一項、一五七条一項に、判示第二の所為のうち、有印私文書偽造の点は同法一五九条一項に、有印公文書偽造の点は同法一五五条一項に、偽造有印私文書行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に、偽造有印公文書行使の点は同法一五八条一項、一五五条一項に、電磁的公正証書原本不実記載の点は同法一五七条一項に、同供用の点は同法一五八条一項、一五七条一項に、判示第三の所為は、平成五年法律第六六号(鉄砲刀剣類所持等取締法及び武器等製造法の一部を改正する法律)附則二項により同法による改正前の鉄砲刀剣類所持等取締法三一条の七第一項一号、三条一項にそれぞれ該当するが、判示第一の偽造有印私文書及び各偽造有印公文書の行使は、一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、各公正証書原本不実記載は、一個の行為で五個の罪名に触れる場合であり、有印私文書及び各有印公文書の各偽造と各同行使と各公正証書原本不実記載と各同行使との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので、刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い印鑑証明書についての偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第二の偽造有印私文書及び偽造有印公文書の行使は、一個の行為で二個の罪名に触れる場合であり、有印私文書及び有印公文書の各偽造と各同行使と電磁的公正証書原本不実記載と同供用との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので、同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし、判示第三の罪について所定刑中懲役刑を選択し、判示第一及び第二の各罪と前記確定裁判のあった罪とは同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示第一及び第二の各罪について更に処断することとし、なお、右各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その各刑期の範囲内で、被告人を判示第一及び第二の各罪について懲役二年に、判示第三の罪について懲役六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を判示第一及び第二の各罪の刑に算入し、押収してある二連式箱型銃二丁(平成五年押第八三号の8、9)は、判示第三の犯罪行為を組成した物で被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号、二項本文を適用してこれを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

一  本件第一及び第二の各犯行は、判示の各偽造文書を含めて多数の偽造文書を作成し、その他の必要書類とともに法務局出張所に提出し、経済取引において特に信用性の高い不動産登記簿に不実の記載等をさせたという事案である。被告人は、ワードプロセッサーや謄写機を用いて右各文書を実際に偽造しているのであって、その犯行態様は大胆、巧妙かつ悪質である。このようにして、判示第一の犯行に関しては、高価な宅地及び建物につき甲野一郎名義の所有権移転登記を不法に具備した上、これを担保に金融業者から現金をだまし取ろうとして、実際にも金融業者等に融資の申込みをするに至っており、判示第二の犯行に関しては、被告人が代表取締役となっている会社の所有名義の不動産の判示抵当権設定登記を不法に抹消した上、他の抵当権等の設定登記をも抹消して、担保物権の付いていない不動産に仕立て、これを利用して不動産金融業者から一八〇〇万円もの融資さえ受けているのである。さらに、判示第一の犯行においては、甲野を共犯者としてその犯行に巻き込んでいるという面も無視できない。

判示第三の二連式箱型銃二丁の所持の犯行も危険性の高い犯行で、悪質なものであることはいうまでもない。

以上のほか、被告人には、本件各犯行当時、暴力団関係者との交際があったことがうかがわれること、過去に前科が多数あることなどを併せ考慮すれば、被告人の刑事責任は重大であり、本件の犯情は悪い。

二  他方、判示第一の犯行においては、前記のとおり、金融業者等から現金をだまし取ろうとしたものの失敗したため、結果的には経済的な実害は生じていない。

判示第三の犯行において所持していた本件銃は、殺傷能力を有するとはいえ、全長一二・五センチメートル、厚さ二・〇センチメートル程度の小型のものであり、その危険性は通常のけん銃等と比べて相当程度低い。さらに、前記の判断で示したような経緯があったとはいえ、本件銃は被告人の自発的意思に基づいて押収されたのであり、捜査に協力しているといえる。

被告人は当公判廷において、本件各犯行について反省の情を示すとともに、今後の更生を誓っていることなど、被告人にとって有利な事情も存する。

三  以上のような被告人にとって有利、不利な諸事情のほか、判示第一及び第二の犯行と前記確定裁判における犯行とは併合罪の関係に立ち、被告人にはその裁判によって懲役一年六月の刑がすでに科されていることなどをも総合考慮した上で、被告人には主文のとおりの刑を科するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・判示第一及び第二の各罪につき懲役二年六月、判示第三の罪につき同一年及び没収)

(裁判官 山田敏彦 裁判官 吉崎佳弥 裁判長裁判官 岩瀬徹は、転任のため署名押印できない。裁判官 山田敏彦)

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